おはようございます(´-`).。oO
せいなです。
2月は今日と明日と明後日の予定です、!
ぜひ会いにきてね・:*+.\(( °ω° ))/.:+
きのうわたしが休憩中に書いた話をここで成仏させるね
ダイエット中ですが甘いものが食べたいよ、、
*・゜゚・*:.。..。.:*・'・*:.。. .。.:*・゜゚・*
余すことなく飲み干した、紅茶のフレーバーを当てるキス。去り際に渡すケーキ。崩れないようにタルトを焼いたのは、あなたが遠くにいってもいいよという意思だった。
口付けのさなか。視線を外したその先で、積み上がる江國香織と吉本ばななの小説が、テーブルにちぐはぐな塔を建てた。
「ピサの斜塔だ」
「ピサって人名なの?」
「んーん、地名」
イタリアだって、と彼がスマホの画面を見せて笑う。
「あんなでかいのに倒れず立ってんだもんね」
と私が言うと
「柚みたいだ」
なんて返答。8畳ワンルーム手狭なこの部屋も、物を落せば傾斜に沿って転がるからもうここはピサじゃあないか、と馬鹿なことを思いついて胃液に押し込んだ。このボロアパートは築40年以上で、同棲しその歴史の5年間を私と真田くんで浪費したのだ。そう思うと真田くんと出会ってもうそんなに経つのかと感慨深くなりながら
「どうせならエッフェル塔がいいな」
口を尖らせぼやく。
「フランスじゃん」
「そうだよ」
しばらくの沈黙の際、垂れ流したMAD HAD LOVE が軽快に鳴っている。
ごちゃっとした観葉植物と北欧風のインテリア。シーシャに小説。低音質のスピーカー。ふたりの好きな音楽。
この城を出て行く決意を先にしたのは、紛れもなく真田くんだった。
「俺が、いなくなるのがそんなにいや?」
「まさか。それはもう話し終わってる」
フランスに行くんだと。チョコを溶かしに。
「日本との時差とか、調べてなんかないよ」
「調べたね?」
「謎の疫病とか流行ればいいのに」
「やめてよ」
「着いていくって言ったら?」
「なにしにいくのさ」
「真田くんの夢が叶って良かったよ」
「それはもう何度も聞いたよ。柚の気持ちは?本当の」
諭すように語りかける、優しい口調。
付き合っている時は喧嘩すらしたことなかった。彼の方が年下なのに、いつもこんな調子で温和な態度を取るからだ。そこが、私は気に食わなかったと今になって考えたりして。
「別れたくないなあ」
と。言いかけてやめた。
「わ、忘れないでね」
絞り出して、口内で唾液がダージリンと混ざる。
彼が先程嗜んだ、熱々の紅茶の残り香が。
「忘れないよ」
真田くんは静かに、告げて私の頬を撫でた。
「柚こそ、忘れないでね」
「忘れないわ」
「倒れそうになったらいつでも連絡していいから」
「私のせいであなたが帰ってくるのはごめんよ」
「別れたくなかった?」
「んーん、土台がしっかりしてるからたくさんフルーツを乗せても大丈夫なのよ。タルトって。」
スポンジと違ってふわふわなんてしてないけど。
「私なら大丈夫よ。この部屋も時期に出ていくけど、帰る場所がない真田くんのほうが大変だしね」
「酷いな。覚悟はしてるよ」
「私より美味しいの作れそう?」
彼の目が潤んで、瞳の中の私がゆらぐ。
あなたの気持ちもこんな風なら、一回ぶん殴ってやりたいくらいだ。
「うん」
私なんてもう、26歳よ。結婚しなくてどうするの。
このままこんな片田舎のボロアパートで、ずっと小さい菓子屋でケーキを焼くの?彼は世界を舞台に同じ職を追いかけてるっていうのに。
私の方がよっぽど惨めで情けないじゃない。恋人の夢を素直に応援できず最初で最後の大喧嘩をした。
あなたはそれでも私のために自分の意志を曲げようとしたし私はそれがやっぱり嫌だった。送り出すと決めたら自分の5年間が無駄になるような気がした。最後スフレを焼けと言ったのは真田くんの好物だったからだろうけど私はタルトを差し出した。タルトはあんまり甘くないから。それに、米津玄師の歌にだって出てくるから。
「ありがとう柚」
「いいえ」
ぽろっと涙を零した彼の栗色の髪が光に透ける。
名前をつけた近所の猫や、錆びた合鍵。ふたりで中古で買った家具とかがふーーーっと頭を過ぎって消えた。
朧げな午後。微睡の15時。
フランスと日本の時差は8時間。
だから。少しだけ私の方が先へ進んでいる。こっちにいる私の方が少しだけ、あなたより先へ進んでいける。
「大丈夫よ、笑って」
この部屋に立ち込めた救えない憂鬱を美味しそうによく噛んであなたは飲み込んだ。
『別れも死もつらい。でもそれが最後かと思えない程度の恋なんて、女にはひまつぶしにもなんない。だから、今日ちゃんとお別れできて、よかったと思う。(吉本ばなな)』